2026.1.20 放送分
【レポート】53通りの働き方がある介護施設?「自分の働くは自分で作る」社会福祉法人 津山福祉会 高寿園に学ぶ、職場改革
仕事と育児の「二者択一」を終わらせる、現場発のイノベーション
「介護の仕事は過酷で、育児との両立なんて到底無理だ」。そんな固定観念が、多くの有能な人材を現場から遠ざけてきました。しかし、岡山県津山市にある社会福祉法人「津山福祉会(高寿園)」の事例は、そんな職場環境が過去のものであることを証明しています。
深刻な人手不足が叫ばれる介護業界において、なぜこの施設には人が集まり、そして辞めないのか。そこには、制度をトップダウンで押し付けるのではなく、職員自らが「自分の働くは自分で作る」という意志を持って進めてきた、職場改革の物語がありました。
1.働き方を創造に変えた、ボトムアップの「53通りのシフト」
津山福祉会・高寿園の最大の特徴は、スタッフの数だけあると言われる「53通りの働き方」です。これらの多様な勤務形態は、2009年に発足した「両立支援委員会」という職員主体の組織から生まれました。改革の出発点は、経営陣による号令ではなく、現場スタッフへの徹底的なアンケートでした。そこで噴出した「もっとこう働きたい」というリアルな声を、一つひとつ制度へと昇華させていったのです。「多様な価値観を大切にする」という風土は、単なるスローガンではありません。子供が小学校を卒業するまで利用できる短時間正社員制度など、ライフステージの変化に合わせた柔軟なアップデートが今も続いています。
画一的な労働条件を排除し、個人の事情を「わがまま」ではなく「システムへのヒント」と捉える姿勢こそが、職場への深い信頼を生んでいます。
2.「子供スタッフ」という発想。職場を教育と交流の場に変える
津山福祉会・高寿園では、子連れ出勤を「許可」する段階を超え、親の負担軽減だけでなく、子供の教育的側面にあります。実際に子供を連れて出勤していた職員は、こう振り返ります。「親が教えるマナーや接遇には限界があります。でも、人生の大先輩である入居者様という『本当の人物』を相手にすることで、子供は自分の態度や言葉遣いの意味を、肌で理解できたのだと思います」高齢者と接することで育まれる思いやりの心。
職場が「親が消える場所」ではなく「親が輝く姿を見せる場所」へと変貌することで、次世代を育む豊かなコミュニティが形成されています。
3.DXは「楽をするため」ではなく「誰もが活躍するため」にある
テクノロジーの導入も、この施設では「多様な雇用を守るための手段」として定義されています。例えば、ベッドのマットレス下に設置された「眠りスキャン」などのICT機器。これは体重移動や心拍、呼吸を感知する薄型センサーにより、入居者の睡眠状態をリアルタイムで可視化するものです。この導入により、夜間の見守り負担が大幅に軽減されただけでなく、意外な効果をもたらしました。「誰が担当しても、同じ水準のケアができる」というスキルの平準化です。
リアルタイムの情報共有と身体的負担の軽減(ノーリフティングケア)によって、経験の浅い若手や、体格の小さな職員、さらには妊娠中のスタッフであっても、等しく質の高いケアを提供できるようになりました。さらに、このDXが施設の外まで広がっている点です。
かつての「子供スタッフ」だった大学生たちが、遠方のキャンパスからテレワークで会議の議事録作成やデータ入力のアルバイトを請け負っています。テクノロジーを介して、物理的な距離や時間の制約を超えた「循環型の雇用」が実現しているのです。
4.孤立を防ぐ専門家伴走。「マイ助産師」が支える心理的安全保障
妊娠中の職員の不安に寄り添うために生まれたのが、現役助産師による「マイ助産師」です。単なる制度としての育休だけでは、現代の働く親の孤独は解消できません。津山福祉会・高寿園では、妊娠中から出産後、子供が1歳になるまで、些細な悩みもプロに相談できる体制を整えています。
印象的なエピソード。
ある時、助産師が施設を訪れ、上の子に生まれてくる赤ちゃんの「心音」を聴かせたことがありました。命の音を聴いた上の子が、弟や妹の誕生を心待ちにするようになったという報告は、この制度が単なる福利厚生ではなく「家族の絆」を守るためのものであることを物語っています。この精神的な伴走が、驚異的な復職率と、職場に対する強いエンゲージメントの源泉となっています。
5.地域に溶け込み、世代が循環する「インフラとしての福祉施設」
津山福祉会・高寿園は、施設を地域に開かれた「場所」として再定義しています。無償の遊び場「おもちゃ図書館」の開放や、月8~9回に及ぶ地域の子育て支援事業。そこには、かつて「子供スタッフ」として育った若者たちが、学校の先生や社会人となり、恩返しとしてボランティアや学習支援に帰ってくる美しいサイクルが生まれています。
災害時、地域の人々が安心して駆け込める避難場所となるべく、おむつや離乳食の備蓄を強化する計画が進んでいます。「介護が必要な人だけの場所」から「地域になくてはならないインフラ」へ。福祉施設の新しいあり方が、ここにはあります。
6.未来をデザインする「言葉の魔法」
津山福祉会の取り組みを支えているのは、制度という箱以上に、人と人との関係性です。施設長の仁木さんのリーダーシップをこう表現します。「私が不安で『大丈夫じゃない』と思っている時、仁木さんは必ず『大丈夫』と言ってくれる。そして不思議なことに、その言葉に導かれるように、本当にすべてが大丈夫になっていくんです」制度は一度作って終わりではありません。
リーダーが現場に寄り添い、心理的安全性を担保し、時代に合わせて常にアップデートし続ける。その対話のプロセスこそが、多様な働き方を支える「魔法」の正体です。「あなたの職場では、どれだけ『自分たちの働き方』を自分たちでデザインできているか?」津山福祉会・高寿園の挑戦は、すべての働く人々と組織に対し、力強い問いを投げかけています。
おかやま県内企業の取組事例や、従業員への子育て支援に係る補助金、セミナーなどの情報を発信する企業向けの子育て支援ポータルサイト「ハレまる。」とラジオコラボ番組です。