2026.1.20 放送分
「レポート」倉敷発の「心が豊かになる働き方」株式会社 行雲
1. 倉敷の美しい街並みから生まれる、新しい「豊かさ」の形
岡山県倉敷市、江戸時代の情緒を今に伝える美観地区。白壁の蔵屋敷が並ぶこの歴史的な街並みを舞台に、「心の豊かな暮らしを作る」という鮮やかなビジョンを掲げる企業があります。古民家を活用したゲストハウスやカフェ「有鄰庵(ゆうりんあん)」などを展開する、株式会社行雲(こううん)です。
彼らが提供するのは、単なる観光サービスの枠を超えた「新しい生き方の提案」そのもの。同社がサービス業という、「第一回岡山子育てしやすい職場アワード」を受賞したという事実です。なぜ行雲は、これほどまでに高いエンゲージメントと幸福感に満ちた組織を構築できたのか。その裏側には、既存のビジネス常識を軽やかに、かつ本質的に覆す「ルール」が存在しました。
2.「妊婦さんいらっしゃい採用」が当たり前という感覚
行雲の象徴的な姿勢を象徴するのが、「妊婦さんいらっしゃい採用制度」です。これは妊娠中の方であっても、その事実を理由に採用を制限しないという、一見すれば大胆な方針です。代表の犬養(いぬかい)氏は、社内で「ワンさん」の愛称で親しまれています。このニックネームは苗字の「犬」に由来するというユーモア溢れるもの。そんなフラットな空気感を持つ犬養氏は、この制度について極めて淡々と語ります。
「妊婦だから拒むっていう意味が、あんまりわからなくて」
多くの企業が産休・育休による一時的な戦力ダウンを懸念する中、犬養氏にとっては、その人の人生のフェーズによって採用を左右することの方が、むしろ不自然なこと。この「制度を制度とも思わない」ほどにフラットな姿勢は、現代の採用市場において極めて希少です。スタッフの中谷さんも「家庭やプライベートを尊重する雰囲気が全社に根付いている」と語る通り、この姿勢こそが、社員の心に揺るぎない「心理的安全保障」を植え付けています。
3. 会社と家庭の境界線を溶かす「ボーダーレス」な空間
「どこでも会社にお子さんウェルカム制度」というユニークな取り組みにより、同社の運営する「有鄰庵」などの現場では、スタッフの子供たちが日常の風景に溶け込んでいます。小学生が学校帰りに会社に立ち寄る姿も、ここでは当たり前の光景です。しかし、行雲の凄みは「子連れ出勤」の枠組みを遥かに超えたところにあります。
• スタッフの家族(両親や祖父母、子供)
• パートナー(恋人、友人)
• さらには近所の人々までも
会社のイベントや日常の空間に、誰でも自由に出入りできる「ノーボーダー」な社風が育まれています。会社を「効率を追求するためだけの隔離された場所」にするのではなく、人生の豊かさが交差する「サードプレイス」として再定義しているのです。職住一体ならぬ「公私の美しい融合」が、そこにはあります。
4.スキルよりも「人間性」— 嫌な人を入れない徹底した採用
行雲のチーム作りの根幹には、人間の本質を突いた強力な戦略があります。それは「嫌な振る舞いをする人を徹底して排除する」という、文化の純度を守るための決断です。
「仕事に行きたくない理由の8割9割は人間関係。ネガティブな要素をなくすだけで、そこは自分の居場所になる」
犬養氏は、どれほど人手が足りなくても、文化を壊す恐れのある人物を妥協して採用することはありません。現在でもアルバイトを含む全スタッフの採用に代表自らが立ち会い、その合格率は決して高くはないといいます。さらに「任せられる人間性を持った人がいない限り、新規事業や店舗は増やさない」と断言している点です。スキル至上主義に陥り、組織を肥大化させる現代の経営に対する、これ以上ないアンチテーゼといえるでしょう。
5.会社は「家」であり「学校」でもあるという定義「学び舎」
行雲が目指すのは、「会社・家・学校の中間にある場所」です。1日8時間という、家庭よりも長く過ごす場所が、単なる「労働の対価を得る場」であってはならないという幸福論的な視点が貫かれています。
• 家のような側面: 誰もが「ここは自分の居場所だ」と感じられる絶対的な安心感。
• 学校(学び屋)のような側面: 短期的な成果以上に「失敗を恐れずチャレンジし、学ぶこと」を評価。
犬養氏は「失敗したということは、そこに学びがあるということ」と捉えています。失敗を許容する文化は、スタッフの主体性を引き出し、働くことそのものを自己実現のプロセスへと昇華させています。
6.高品質な「中量生産」が生む、ローカル・クラフト・クリエイティブの誇り
同社の事業を支えるのは「ローカル・クラフト・クリエイティブ」という3つの柱です。中でも注目すべきは、倉敷の歴史を背景にした「中量生産」という概念です。
• クラフトの精神: 倉敷が「民芸運動」の拠点であったことに敬意を払い、パティシエが一つずつ手作りするような高品質なものづくりを志向する。
• 中量生産: 工場での大量生産でもなく、一点物の芸術品でもない。クオリティを保ちながらも、多くの人に届けられる適正な規模。
• クリエイティブの定義: 「右へならえ」ではなく、自分たちの知恵と工夫で「世の中にまだないもの」を生み出す姿勢。
地元の地域資源(食、工芸、原料)に自分たちの知恵という付加価値を加え、誇りを持って届ける。この「適正規模での誠実な仕事」が、スタッフの心にプロフェッショナルとしての自尊心をもたらしています。
7.私たちが「働く」を通じて本当に手に入れたいものは何か?
株式会社行雲の取り組みは、単なる手厚い福利厚生の紹介ではありません。それは、「嫌な人を入れない」「家族を排除しない」「失敗を学びと捉える」といった、人間の尊厳と心の豊かさを取り戻すための、極めて合理的で血の通った「経営戦略」です。スタッフの中谷さんが語った「お互い様」という精神は、トップが掲げる理想が、現場の隅々にまで浸透している証左に他なりません。売上や利益を追うことと、個人の幸福を追求することは、決して相反するものではなく、むしろ幸福な個人が創造する文化こそが、最強の競争力となるのです。
最後に、ご自身の環境を振り返ってみてください。 「あなたの職場は、あなたの人生を豊かにしていますか?」倉敷の美しい街並みから届くこの問いかけは、これからの時代を生きる私たちに、働くことの本質的な意味を問い直しているようです。
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