2025.12.18 放送分
【レポート】残業わずか2.8時間。岡山から届いた「医療現場」の常識を覆す働き方の革命
1. 医療現場の「当たり前」を疑う
「医療従事者は多忙を極めて当たり前」——。
そんなイメージを抱いている方は多いのではないでしょうか。人命を預かる現場ゆえの緊張感と、慢性的な人手不足。医療業界において「働き方改革」は、理想であっても実現は困難な高い壁。しかし、岡山県岡山市南区に、その「常識」を鮮やかに覆している組織があります。回復期リハビリテーションを主軸に、入院から在宅までシームレスなサービスを提供する「特定医療法人 自由会」です。
岡山光南病院や光南クリニックを運営する同法人は、岡山県が実施する「岡山子育てしやすい職場アワード」を受賞。特筆すべきは、単に「休みが多い」といった表面的な制度の話に留まらない、徹底した「人本主義」の浸透です。残業時間は月平均3時間に満たず、有給休暇取得率は約9割。
なぜ、これほどまでに高い生産性と職員の幸福度を両立できるのか。医療現場の未来を指し示す、自由会の「働き方の革命」の裏側に迫ります。
2.1981年からの「先見の明」はトレンドではない
自由会の取り組みを紐解いて驚かされるのは、その歴史の深さです。働き方改革が国を挙げて叫ばれるずっと前、昭和56年(1981年)に岡山市南区で診療所を開設した当初から、すでに「職員が安心して働ける環境」への投資が始まっていました。
• 昭和57年: 院内託児所を開設
• 昭和62年: 育児休業制度を導入(県内医療機関では初)
• 昭和63年: 完全週休2日制を導入
昭和62年に育児休業制度を導入した点です。当時、医療機関でこのような制度を設けるのは極めて稀でした。なぜ、これほど早くから着手できたのでしょうか。そこには、「安心して継続的に働ける環境こそが、医療の質に直結する」という、現理事長の強い信念がありました。
開設当初、人材の採用と定着に苦慮した経験から、職員を大切にすることこそが最大の「リスクマネジメント」であり、組織の基盤であると見抜いていたのです。自由会の改革は、単なるトレンドの追随ではなく、40年以上にわたる確固たる経営哲学の継承なのです。
3. 不妊治療を「特別休暇」で支える実行力
自由会の制度が優れているのは、それが単なる「福利厚生の羅列」ではなく、切実な「職員の声」から生まれている点にあります。定期的な満足度調査やアンケートを通じて職員の不安を吸い上げ、具体化した好例が「不妊治療支援制度」です。費用の補助に加え、年間10日の「特別休暇」を設定している点。この制度の背景には、自身も理学療法士として現場を知り、不妊治療の経験を持つ事務部長の強い想いがあります。仕事と治療の両立には心身ともに大きな負担と不安が伴います。だからこそ、経済的な支援だけでなく通院のための特別休暇も設定し、職員が安心して治療に臨めるよう実行性を高めています。経済的な支えだけでなく、「休む権利」を明文化することで心理的なハードルを取り除く。この「現場の痛み」に寄り添った実行力こそが、職員の心理的安全性を高め、深い信頼へと繋がっています。
4. 残業「月平均2.8時間」を支えるデジタルと感情の交流
医療現場において、残業時間を削減するのは至難の業です。しかし、自由会のデータは驚異的です。令和4年度の月平均5時間から、令和5年度・6年度には「2.8~2.9時間」にまで短縮されています。この成果を支えるのは、テクノロジーとアナログな温かさの融合です。
まず、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入。パソコンでの定型的な事務作業を自動化。狙いは明確です。なかなか看護師やリハビリのスタッフの手の代わりにはならないですが、事務的な作業に大変助かっています。テクノロジーに「単調な作業」を任せることで、看護師や理学療法士が、患者さんの「生活の再構築」を助けるという本来の専門業務に集中する時間を作り出しているのです。また、制度面でも「1時間単位の有給休暇」に加え、病気や怪我の際に使用できる「有給休暇の積み立て制度」を整備。万が一のセーフティネットが、職員の安心感を支えています。さらに、職場内では「いつも助けてくれてありがとう」「仕事の目標になっています」といった想いを伝える「メッセージカード」の交換が盛んに行われています。効率化で生まれた時間が、こうした心の交流に充てられている点に、この組織の真の強さがあります。
5. 子供たちが「看護師になりたい」と願う職場参観
自由会の活動は、法人内だけに留まりません。岡山県が推進する活動に賛同して実施している「子供参観」は、次世代の職業観形成に大きな影響を与えています。事務部長の次女も、3年前の第1回参観に参加しました。その結果、父親の働く姿、そして命に向き合う医療の現場を目の当たりにした彼女は、現在「看護師」を将来の夢に掲げているといいます。親が誇りを持って働く姿を見せることは、子供たちにとって何よりの教育です。職場をオープンにすることで、家族からの尊敬や感謝が育まれ、それが職員の「明日も頑張ろう」というモチベーションに還元される。地域社会全体にポジティブな循環を生み出しています。
6. 地域を包み込む「暮らしの保健室」
「病院は病気になった時に行く場所」という壁を取り払う試みも注目に値します。昨年6月に開設された「暮らしの保健室」は、誰でもふらっと立ち寄れる地域のコミュニティ拠点です。ここでは、高齢者から子育て世代までがコーヒーを飲みながら交流できるだけでなく、医師や看護師、ソーシャルワーカー、さらには行政書士までもが定期的に駐在。医療・介護から生活の困りごとまで、幅広く相談に乗っています。お祭りやカフェといったイベントを通じて「笑顔」を循環させるこの場所は、病院という存在を「地域の安心の象徴」へとアップデートしています。
7. 職員の「笑顔」が、最高の医療サービスへの近道
自由会の歩みは、決して平坦な成功物語だけではありません。男性の育児休業取得率は令和3年から100%を継続してきましたが、令和6年度は3名中1名が取得できず、一歩後退する場面もありました。しかし、そうした課題を隠さず、柔軟に取得できる環境(2週間~4ヶ月の複数回取得など)を模索し続ける姿勢こそが、信頼を生むのです。患者さんや地域の方に良い医療、介護サービスを提供するためには、まずは職員が笑顔で元気でなくてはならないと思っています。この言葉に集約される通り、職員の幸せを後回しにして、質の高いサービスは維持できません。2.8時間という残業時間は、単なる効率化の結果ではなく、職員一人ひとりの「心のゆとり」が生み出した賜物です。
あなたの職場では、働く人の「笑顔」を何よりも優先できていますか?岡山で40年以上前から続くこの「革命」は、すべての企業が「人」を中心とした組織へと立ち返るための、重要なヒントを提示しています。
おかやま県内企業の取組事例や、従業員への子育て支援に係る補助金、セミナーなどの情報を発信する企業向けの子育て支援ポータルサイト「ハレまる。」とラジオコラボ番組です。